まずい状況が続いている。
大福が我が家での市民権を得始めた…
大福というのは嫁の愛鳥の名前で、白くてちょっとモフモフな文鳥だ。
我が家では「ふくたん」と呼ばれ、長女を中心に親しまれ始めている。
まずい…
嫁が放鳥をし始めるとあれほど反対していた長男までが止まり木のポーズをしだす始末…。
なんてことだ。
そう。
息子も最初は、こちら側の人だった。
ペットを買うことに強く反対していた心強い味方だったのに。
文鳥のモフモフ感に屈しおって…。
惰弱!
文鳥が彼なのか彼女なのかはいまだ不明だが、奴は恐らくオスだろうと推測している。
可愛い顔をしているが、私へのあたりが異常にきつい。
息子は奴に媚びてはいるはが、奴の息子へのあたりもまたきつい。
趣味のない嫁との夫婦生活をより円満にするために、私の趣味であるガンプラへと誘導しようと画策し始めたその矢先。
嫁が文鳥をこの家に連れてきた。
どうも私と同じことを考えていたのではないかという節がある。
嫁をガンプラ色に染め上げるか。
あるいは、私が文鳥色に染め上げられるか。
お互いを自分の趣味にひきずりこもうというそんな不毛な戦いが始まってしまった。
ここはもう、それぞれのフィールドで楽しんではどうか
敢えて交わる必要もないだろう
などという思いもしないではないが、私はどうしてもガンプラの魅力を彼女に知ってもらいたい。
だから、今はまだ引くわけにはいかない。
戦いは始まったばかりだ。
しかし、そもそも文鳥を飼うことは趣味なのか?
確かに、餌やりにケージの掃除、そしてかわいがりと時間は消費する。
だが1時間も2時間も奴だけに向き合っていることは難しい。
かわいがりだって、せいぜい30分程度だ。
それに、そのうち嫁に代わって息子や娘たちが飼育を担当するにちがいない。
そもそもウチの嫁は飽きっぽいのだ。
だから、これはまだ趣味ではないと私は思っている。
この頃、嫁がケージを掃除しはじめると、
「掃除するから、ふくたんと一緒にこの部屋にいて。絶対に動かないで。」
などと言い出した。
一体どういうつもりなのか…
私の時間まで使い始めたよ。
日曜の朝、遅めの朝食を終えた優雅なひと時。
そろそろガンプラ製作でもしようかいと2階に上がりかけたその時だ。
福助を見てろだと!
なんて横暴な嫁なんだ!
ほんとにもう!
とんでもないやつだ!
嫁は最近私と大福を二人(一人と一羽)にしたがるが、私にもモフモフ感を体感させ、長男と同じように篭絡しようと考えているのだろう。
なんて浅はかな思考…
甘い。
甘いな。
嫁よ。
悪いが今のところそんなことはあり得ない。
よしんば、私がヤツを可愛いと思ったとしても、奴がそれを許さない。
嫁が姿を消すと、大福は態度を豹変させる。
超攻撃的モードへと恐るべき変貌をとげるのだ。
まずは目だ。
文鳥の目は丸い。
そしてピンク色の縁取りがあって、普段は可愛い。
だが、私と二人になると、この目が細くなり凶暴な風貌を醸し出す。
あれは殺し屋の目だ。
殺し屋の目を見たことはないがたぶんあれがそうだ。
目つきを変えると、私に近づき、唸り始める。
嫁がいる時は可愛い声で鳴いているのだが、嫁が消えると
グウルルルルゥーーー
まるでネコ科の猛獣のように低いうなり声をあげる。
文鳥のくせに驚くべき豹変ぶりだ。
そしておもむろに私に近づくと、鋭いくちばしで攻撃を開始する。
奴の攻撃は「チネリ」が主力だ。
くちばしで、つまんで、ひねって、ちぎる。
これが強烈に痛い。
華麗にヒットアンドアウェーを繰り返し、ピンポイントで、狙ってくる。
奴の狙いは中指の先にできた小さなさかむけと、右頬のほくろだ。
奴はこの2カ所を重点的に攻めてくる。
先日などは、指先の生皮をひんむかれてしまい、流血する騒動となった。
そして、私の指先からひん剥いたさかむけをそのまま食すのかと思ったら、何度か咀嚼して吐き捨てやがった!
ぺっ。
ぬぬぅーーー!
許せん!
そこまでやられては、わたしも反撃せざるをえまい。
もちろん手を出すなどということはない。
相手はしょせん小鳥。
精神攻撃で対抗だ!
「ヤキトリ」と言ってやるのだ。
奴が「ヤキトリ」を知っているかどうかは知らん。
しかし、どうやら奴の本能に響く言葉なんだろう。
奴はこの言葉に敏感だ。
目の色を変えてむかってくる。
本気で怒っているにちがいない。
大人気ないやつめ。
そうして、嫁がいない間、私と奴の間では
チネリ⇒ヤキトリ⇒チネリ⇒ヤキトリ⇒チネリ⇒ヤキトリ
といった激戦が繰り広げられることになる。
嫁よ。
残念ながら、大福とわたしが分かりあうことはしばらくなさそうだ。
今のところ戦いは激化の一途をたどっている。
しかし、ガンプラを愛す人たちは、全てを分かり合うことができるという。
そうだ、大福のケージにウィングガンダムを入れてやろうかな。
いや、ハシュマルの方が親切というものか。
そうしたらきっと奴とも分かり合う日がくるだろう。
その頃には嫁もガンプラにぞっこんになっているに違いない。