その日家に帰るとBS朝日の「ウチ“断捨離”しました！」が放映されていた。
嫁と大福がけらけらと笑っている。
で、なんとなくワタシもその横で一緒にみることになった。
因みに、大福というのは嫁の愛鳥の名前だ。
白くてモフモフな文鳥を嫁がそう名付けた。
だが私はキュベレイと呼んでいる。経緯はこちらを参照。
この番組は、「やましたひでこ」という断捨離の達人がモノを捨てられずに悩む依頼者のお宅にあがり込み、ばっさばっさと切り捨てていく番組だ。
もともとあまりテレビを見ない方だが、嫁がよく見ているので、この番組はなんとなく知っていた。
そしてこの「やましたひでこ」なる人物がワタシは大嫌いだった。
よそのうちにずかずかとあがりこみ、右往左往しながら悩む依頼者に向かって
「こんなものいらないわよ！」
「すてちゃいなさいよ！」
などと吐き捨てる。
なんと居丈高で嫌な女なんだろう。
そんな風に思っていた。
しかし、テレビ番組というのは怖いものだ。
ところどころに見せる彼女のハートフルな発言から、彼女のイメージが番組によって編集されたものだと気付く。
なんでもメディアを鵜呑みにしてはイケマセン。
特に派手なものや面白そうに作ってあるものは要注意。
それはともかく。
いつになく、嫁と大福が楽しそうなので、
「今日の依頼者はどんなん？」と聞くと
「今日は、旦那の遺品整理よ。」
コチラを見もせずに嫁が言った。
どうしてそんなに楽しそうなんだろう。
なんかイラっとする…。
依頼者の女性はもう70歳に近いようだ。
今日は10年近く前に逝った旦那の膨大な遺品を整理している。
どうやら依頼者の女性が、自分自身で番組に依頼したらしいのだが、いざとなると旦那との思い出の品が捨てられず困っていた。
そりゃそうだろう。
大切な人の思い出の品だ。
やました女史の言葉も辛らつだが、あまつさえ二人の娘たちからも「早く捨てなよ」などとなじられ、悲しい顔をしている。
なんて娘たちだ…
依頼者の女性は、きっと、亡くなった旦那との思い出を軽んじられたようで辛いのだろう。
もはや少し涙ぐんでいる。
見てるこっちが泣けてくるよ…。
てゆうか、テレビだか何だか知らんが、今からひっくり返してやればいいのに。
やっぱりやめるって。
やましたひでこもびっくりするだろう。
こんなふざけた番組を見て、うちの嫁は一体何が楽しいのか？
確かにこの家は、みるからにゴミ屋敷だ。
部屋の中には足の踏み場もない。
年老いた依頼者が、足の踏み場を間違えて捻挫でもしたら大変だ。
旦那の遺品整理。
そうだね。
不要なものは捨てないとね…。
奥さんは生きているんだから。
次のステージに行けないもんな。
それは分かる。
でもな…
なんかとても嫌な気分だ。
…。
…。
あのさー
言うつもりはなかったが、口からこぼれてしまった。
「〇〇（嫁）が死んでも僕は遺品を捨てないと思うよ。
かさばるもんでもないし、簡単にはすてられないね。
少なくとも僕には。」
すると間髪入れずに帰ってきた答えがこれだ。。
「私は捨てるわよ。持ってても仕方ないじゃない。」
ほう。
そうくるか。
まあ。そうだ。
そんなものがあると、次のステージにいけないのは分かると言った。
君が幸せになる為に必要でないものは捨てないといけないな。
それが断捨離というものだ。
だけどさ。
だけどもさ。
ちょっとあっさりし過ぎじゃないのか…？
答えは予測できたがあえて聞いてみることにした。
「ナニカラステルノ？」
ガンダムよ。（即答）あれって燃えるゴミ？
これも間髪入れずに返ってきた…。
お、おう…。
袋にそのまま入れていいの？
どうかな…。市役所に聞いてみようか…
じゃねぇよ！！！
やはり！やはり、捨てるつもりだったかっ！
恐ろしい…
恐ろしい嫁だ。
この際だ。はっきりさせておこう。
…。
じゃあさ、積みプラとかどうすんのよ？
あれは捨てないわよ。だって売らなきゃ。
しっかりしている。
あれが売れそうだと気付いているところが怖い。
夫婦の何気ない会話の中には、多くの真実が紛れ込んでいるというが、今、ちょうど芯くったかんじだ。
彼女はたぶん僕がいなくても生きていけるだろう。
やるな。
てゆうか、旦那さんが、大事にしてたものだよ。
旦那さんがどんな気持ちでガンプラ作ってたかとか想像しないの？
「わたしもこれを作ってみたらあなたの気持ちに近づけるかしら…」とかなんないわけ？
なんないわよ。
じゃああなた、関ジャニのDVDみて、
「お前の意思は引き継いだ！これからは俺が応援するぜ」とかなるわけ？
それはない。
ほら。おなじじゃない。
えー おなじかな？
おなじよ。
てゆうか、一体も残さないの？
てゆうか、一体も残すつもりがないわよ。
工具とかも？
工具とかも。
ザクも？
ザクも。
νガンダムも？
νガンダムってなによ？
け、結構たくさんあるよ。
全部よ全部。なにもかもぜ・ん・ぶ。
なんで？
なんでもなにも…。
私さぁ、思い入れがまったくないのよそれ。
あなたの趣味の中でガンダムが一番いらないと思ってる。
あんたのお母さんが欲しいって言っても捨てるわよ。
…。
…。
なるほど。
なるほどね。
そういうことね。
ふむふむ。
救いはありました。
そうか。
そうか。
知らないもんね。ガンダムのこと。
そりゃそうだ。
知らないんだもん。
だって知ってたら捨てられないよ。ガンダムは。
そうか。
そりゃ僕が悪かった。
週末、一緒にユニコーンガンダム見ようか！
なんで？
絶対嫌よ。
時間がもったいないじゃない。
ガンダム観るくらいなら昼寝の方がましよ。
な、なんだと！
ぬぬぅーー！
地獄におちろ！
このあほ嫁めっ！！
結局その日はそうなった。
…。
作戦を練り直すしかあるまい…。
思い入れがないものはすべて捨てられる。
積みプラを値踏みしている嫁のすがたが私には見える。
ガンプラが既にロックオンされていたとは…。
衝撃の事実だ…。
まずは、ガンダムとは何かを理解させねばなるまい。
なにか良い知恵はないものだろうか。
しかし、ザクのことは知っていたな…。
全く知らないわけでもないのか…。
他に何を知っているのか？
この辺りから探りを入れてみることにするか。
ガンプラ洗脳計画は果てしなく続きそうだ…。
